万能壁画には何が書かれている?
ユネスコ世界文化遺産である韓国の高句麗古墳群(こうくりこふんぐん)には、「万能壁画」(ばんのうへきが)、別名「手搏図」(しゅばくず)と呼ばれる日本の相撲に似た壁画が描かれています。
ただ、西暦357年という遙か昔に描かれたこともあり、情報がとにかく少なく、本当は何を描いたものなのかはっきりとは分かっていません。多くの謎に包まれた韓国の万能壁画について詳しくみていきましょう。
万能壁画とは?
世界文化遺産であるとはいえ、日本ではなく韓国のことですので、万能壁画について知らないという方も多くいらっしゃることでしょう。まずは、万能壁画とはどのようなものなのかチェックしてみましょう。
重要なアカシックレコード
これは半島の行く末を予言して描かれたものだったのだなw#万能壁画 pic.twitter.com/eEiNWGM5VG
— 濱口屋 甚平@釣られる男 (@rincodontypass) May 6, 2018
万能壁画(만능벽화)とは、韓半島北部にある高句麗古墳群のうち、「安岳3号墳」(あんがくさんごうふん)に描かれている壁画のことです。安岳3号墳には「357年」の墓碑銘が残っていることから、万能壁画も西暦357年の高句麗の故国原王(ここくげんおう)の時代に描かれたとされます。
また、被葬者は高句麗に亡命した燕(えん)の武将・冬寿(とうじゅ)であると考えられています。万能壁画は2人の人物画であり、至ってシンプルなものですが、そこには韓国の歴史や、韓国で創始されたあらゆる事物の記録としての意味合いの他、未来の予言までもが含まれているとされ、重要なアカシックレコードとしての意味を込めて「万能」壁画と呼ばれています。
2004年ユネスコ遺産として登録
万能壁画を含む安岳3号墳は、2004年に高句麗古墳群の一つとして世界文化遺産に登録されました。この際、高句麗古墳群と、中国にある高句麗前期の遺跡が同時登録されています。当初は2003年に登録される予定でしたが、高句麗地区の領土問題により登録が延び、1年後の2004年に登録されることとなりました。
高句麗古墳群は全部で63基あり、万能壁画(手搏図)が描かれている安岳3号墳をはじめ、徳興里古墳(とくこうりこふん)、修山里古墳(しゅうさんりこふん)、江西大墓(こうせいたいぼ)なども壁画が描かれていることで知られています。
これらの壁画の中には、日本の奈良県明日香村にある高松塚古墳の壁画と関連していると思われるものもあるそうです。
高句麗時代の人々の暮らしなどが描かれている
安岳3号墳は1949年に発見され、相撲のまわしのような着衣の人々が2人で向かい合っている様子が描かれた万能壁画(手搏図)で有名となりました。
安岳3号墳の壁画は、こちらの万能壁画(手搏図)の他、被葬者夫妻の座像、舞楽図(ぶがくず)、騎馬行列、文人や武人像、牛舎、馬厩(うまや)、装飾文様など非常に多岐に渡る事象が描かれています。しかし、万能壁画(手搏図)をはじめ、何を描いたものなのかはっきりとは分かっていないものも多く、未だ謎に包まれています。
万能壁画にはどんなものが描かれている?
安岳3号墳内にある万能壁画(手搏図)には、韓国の過去の歴史から未来の予言に至るまで多くの情報が記されているとされています。
また、万能壁画を根拠に日本古来の文化と考えられていた相撲や、ドイツが発祥とされるクリスマスツリーなどもすべて韓国が起源であるとの声が挙がり、各方面でさかんに議論がなされています。万能壁画に描かれている人物(事物)について、検証してみましょう。
①相撲(手搏図)
「手搏」(しゅばく)とは素手での武術の古い呼び名であり、万能壁画に描かれている相撲のまわしのような着衣の人々の絵は手搏をしているように見えることから「手搏図」と呼ばれています。
この手搏図は、韓国相撲である「シルム」を描いたものであるとも考えられ、このことから中央日報や韓国シルム連盟関係幹部は、日本の相撲の起源は韓国のシルムであると紹介しました。
しかし、日本における相撲の起源は古墳時代とされており、万能壁画が仮にシルムを描いたものであるとしても、双方に関連性はなく、たまたま似たような競技が別々に発生しただけとみられます。
土俵の上で戦い、押し出しや寄り切り、突っ張りがある日本の相撲に対し、韓国のシルムには土俵がなく、相手を場外に出しても勝ちにはならない点や、シルムには競技時間5分間、3本勝負という決まりがあったりと、異なる点も多く、日本の相撲の起源が韓国のシルムであるという具体的な根拠はありません。
②忍者
万能壁画はシルムの他に、2人の忍者が対峙している様子を表しているとも言われています。韓国の人々はこの説を元に、「忍術は4世紀に朝鮮半島から日本に導入された韓国起源の武術である。」または、「忍術は7世紀に高句麗を通じて日本に伝わったものである。」、「伊賀忍者の指導者だった服部氏は、新羅系の秦氏の末裔である。」など様々な主張をしています。
しかし、日本で忍者の原型のような存在が確認されたのは平安末期頃であり、韓国から伝わったとすると時代が合わないことや、服部氏が秦氏の末裔であることは『三国地誌』と『永閑記』で否定されており、いずれも信憑性はありません。
③空手
万能壁画は韓国の伝統武芸であるテッキョンをも表しているとされます。テッキョンは格闘技ではなく、舞踊のように動き、攻撃よりも守備に重きを置いた精神修養のための武芸であり、万能壁画では右側の人物がカルチロギ(横蹴り)を放とうとしており、左の人物がフェモクジェビ(脚捕り)をしようとしているところだそうです。
韓国では、日本の空手はテッキョンを祖としていると主張しており、2002年に韓国の釜山で開催されたアジア競技大会では、公式サイトにおいて「空手の起源はインドで唐の時代に中国と韓国に伝わり、その後韓国が日本に伝えた。」と記述し、日本側が抗議をする事態となりました。
同時に「柔道韓国起源説」も記述されていましたが、日本の抗議後にこちらは削除されたものの、「空手韓国起源説」は最後まで削除されることはなく、遺恨を残しています。ちなみに、日本では、空手は琉球から日本本土に伝わったものであるとされています。
④デモ
韓国では、2008年に米国産牛肉輸入再開反対をきっかけとした大規模な「蝋燭デモ」(ろうそくデモ)が起こり、最終的に李明博(イ・ミョンバク)政権に対する批判と退陣要求へと争点が拡大してゆきましたが、このデモを万能壁画が予言していたとされています。
なんでも、右側の人物が手に蝋燭(ろうそく)のようなものを持っているように見えることから、そう言われているようです。ちなみに、このデモは日没後に行われ、参加者は蝋燭に火を点して集まったことから「蝋燭デモ」と呼ばれています。
⑤クリスマスツリー
昨年韓国メディアは、世界でクリスマスツリーとして販売されている木の多くはクサンナムという韓国の特産種だとし、クリスマスツリーは韓国が起源であるという主張をし始めました。
これに対し各国の反応は冷ややかで、日本においては、「どうせまた、万能壁画はクリスマスツリーの飾り付けをしているように見えるとか言い出すんだろう。」といった呆れた声が挙がっています。
今のところ韓国において、万能壁画にクリスマスツリーが描かれているという主張はされていないようですが、今までのことを考えると時間の問題であるとも言えます…。
万能壁画に何が書かれているかはわかっていない
万能壁画はアカシックレコードであるとされ、上記でご紹介したように様々な事物を表していると考えられています。このことから、万能壁画はその名の通り、何にでも例えることができる「万能」な壁画であると言うことができますが、裏を返せば、結局のところ何が描かれているのか分からないということでもあります。
描かれているものが分からないからこそ、解釈の仕方が無限に広がり、今後も万能壁画の解釈や意味は増え続けてゆくと予想されます。
万能壁画以外で韓国が起源とされている文化は?
上述の通り、万能壁画を根拠に様々な事物の韓国起源説が唱えられていますが、万能壁画とは関係のないところでも、日本の文化を韓国が起源とする説が続々と出ています。日本の文化のうち、韓国が起源と主張されているものをチェックしてみましょう。
①テコンドー
こちらは万能壁画にも関係していますが、上述した韓国の伝統武芸であるテッキョンは、空手と同様にテコンドーの祖であるとされています。
国際テコンドー連盟によると、テコンドーの始まりは、創始者とされる崔泓熙(チェ・ホンヒ)がテッキョンと日本の松涛館(しょうとうかん)空手道の要素を融合させ、1955年4月11日に「テコンドー」と名付けたとされています。
テコンドーの創始者は韓国の崔泓熙ですか、テコンドーは韓国だけでなく、日本の文化を参考に創り出された格闘技であると言えます。また、テッキョンもテコンドーも足技が特徴ですが、万能壁画の人物はただ向かい合っているのみであるため、万能壁画がテッキョンを描いたものであるという説は疑問視されています。
②切腹
韓国で“戦う男”を意味する「サウラビ」と日本の侍の対決を描いた映画『サウラビ』の紹介記事では、「百済のサウラビ達の衝撃的な割腹と断頭意識は、後日の侍の割腹とも深い関連があることを示唆する。…日本側の関係者がこうした歴史的事実に驚き、今後の文化交流の尖兵(せんぺい)になるであろうと自認した点も興味深い。」と述べられており、切腹の起源は百済すなわち韓国であることを主張しています。
しかし、百済において切腹(割腹)の風習が存在したとする資料は存在せず、また、切腹が韓国から日本へ伝えられたという根拠も何一つとしてありません。ちなみに、歴史上で初めて切腹を行った人物は、日本の平安時代末期の武将である源為朝(みなもとのためとも)であるとされています。
③しょう油
韓国の液体調味料の専門企業であるトンウンFCは、「しょう油は韓国が元祖であり、世界市場で韓国の伝統醗酵食品のしょう油が日本の製品のように認識されていることを正したい。」といった主張をしています。
実際には、韓国でのしょう油づくりには日本人が作った醸造設備が使われており、しょう油の技術は完全に日本発祥です。
④日本語
驚くべきことに、なんと、日本語の起源が韓国語であるという説も出ています。
韓国人数学者である金容雲(キム・ヨンウン)教授は、著書『天皇は百済語で話す』の紹介記事において、「現代の韓国語は新羅語を中心に収斂(しゅうれん)され、日本語は百済語を中心に発展したものだ。朝鮮語と日本語は共通の祖語を持つが、数字の3、5、7は韓日で発音が全く異なることから、新羅語と百済語がそれぞれ朝鮮語と日本語に繋がったとが分かる。」、「日本で百済を『クダラ』と読むのは 『大きい国』という意味で、日本は百済の分国だった。」などと述べています。
しかし、金容雲教授の主張は、日本語には音読みと訓読みがある事を無視しており、また、日本語と韓国語(朝鮮語)の数字の数え方の違いを強引に存在不明な新羅語や百済語に結びつけていることから、偽言語比較論であると批判されています。『クダラ』が『大きい国』という意味であるというのも根拠不明であり、信憑性はありません。
万能壁画が登場する漫画が話題に
韓国が誇る万能壁画ですが、実は、万能壁画が登場する漫画が日本に存在します。どんな漫画なのか、また、どのように万能壁画は登場しているのかみてみましょう。
ギャグ漫画「テコンダー朴」
白正男(ペク・ジョンナム)さん原作、山戸大輔さん作画のギャグ漫画『テコンダー朴』(テコンダーパク)に万能壁画が登場しています。
『テコンダー朴』は格闘漫画であり、主人公の朴星日(パク・スンイル)が父の仇を討つために来日し、覇皇会館武闘大会への出場権を得る…というストーリーです。
主人公が朝鮮民族を「世界最高民族」と称して韓国起源説を多用する一方、日本人は王道の悪役として登場することが多く、日本人は全員「チョッパリ(日本人野郎)」と呼ぶのがお決まりであったりと、韓国・朝鮮人の反日思想や歴史観を風刺し、面白おかしく描いた漫画となっています。
主人公が韓国起源説を多用するため、万能壁画は登場頻度が多く、万能壁画のイラストとともに毎回「その証拠に4世紀中頃に造られた高句麗古墳の壁画「手博図」には…」という説明が付き、笑いを誘います。
あまりに頻回に登場するため、読者の間では「万能壁画くん」と呼ばれて親しまれており、この漫画で万能壁画を知った人も多いようです。
内容の問題性で韓国議会の議題に
『テコンダー朴』は日本では面白いと人気ですが、韓国でも悪い意味で話題となり、2015年9月10日には韓国の国会にて、元恵栄(ウォン・ヘヨン)議員が取り上げて批判する事態となりました。
しかし、批判の内容は朴槿恵(パク・クネ)大統領が暴行されるシーンのイラストに対してのもので、漫画の詳しい内容や、韓国人の思想が風刺されていることには全く気がついていない様子です。上記のシーンのイラストを見た韓国の人々は、「実に幼稚で哀れだ。」、「韓国は安倍首相を暴行する漫画を!」と怒り心頭でした。
万能壁画は野獣先輩のネタにも
万能壁画はインターネット上で、野獣先輩のネタとしても使われることがあります。野獣先輩とは、2001年にコートコーポレーションから発売されたゲイアダルトビデオ『真夏の夜の淫夢』の第四章「野獣と化した先輩」に登場する先輩役の男優さんのことです。
水泳部の先輩と後輩という設定のストーリーで、作中で先輩の家の屋上で2人で体にオイルを塗って日焼けをするシーンがあるのですが、このシーンが万能壁画にそっくりだと話題になりました。詳しくは作品をご覧下さい。
万能壁画の可能性は無限大
古墳の壁に描かれたシンプルな人物画の中に、これほどまでに色々な意味が込められているとは、万能壁画はその名の通り、まさに「万能」です。世界遺産として登録されたことや、漫画など笑いのネタとして使用されることも増え、日本においても知名度が上がってきている万能壁画。
今後どのような解釈がなされ、どのような韓国起源説が飛び出すことになるのか引き続き楽しみです。